越後屋は声も出ず、ただ口をポカンとだけ開けて下から代官を見上げていた
その越後屋に衝撃が走った
ポカンと開いた口に何かが押し込まれたのだった
「!!」
目の前には代官の顔があった
それは本当に目の前だった
そして、口に押し込まれたものは代官の舌だという事がわかった
あまりの突飛な状況に、越後屋は体中の力が抜けてしまった
そこを見計らってか、代官がもう片方の手首を掴み、越後屋の両手を高く引き上げた
ドタン!!
途端に越後屋は体制を崩して背中から仰向けになって倒れこんでしまった
そして、かぶさるように代官も一緒に倒れこんだのだった
代官の舌はまだ越後屋の舌を絡めていた
まるで結び目を舌で解くように、右へ左へ上・下・・・とせわしなく口の中で動いた
越後屋は益々理解不能な状況に声も出なかった
二人の口元から唾液がだらしなくこぼれ続けた
越後屋には長い長い接吻だった
よおやく口元から離れた代官が越後屋の上に見える
足元にある行灯の薄暗い灯りだけが、代官の顔を照らしていた
その顔は優しい表情になっていた
越後屋は「こんな表情もする人なのだぁ・・」と、この状況でそんな事をふっと考えた自分に
自分自身ビックリしていた
「これで、もう後戻りは出来まい。後は体を楽にして私に任すがよい」
越後屋も、もうどうにもならない状況だという事を痛感した
それに正直言うと、先程の接吻に不快感は無かったのである
自分でそれを認める事は出来ないが、体は正直に認めていた
越後屋の体の一部がそれを示していた事が、今は代官にバレていないのが幸いだ・・・・と
越後屋はそう思い、なんとかそれを落ち着けさそうと気を紛らわさせていた
越後屋が本気で観念した事を感じた代官は、越後屋の上に跨ったまま
身に付けていた刀を外し、上着を脱いだ
そして、帯びを少し緩め着物を着崩れさせた
それから、腰を屈めて越後屋に再度顔を近づけた
「心配するな。荒っぽい事はしない。これは取引だ。おぬしもそう割り切れ」
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