それぞれの関係 妻の場合 6P
「もしもし・・・・山田さんのお宅ですか・・?」
相手は、夫の同僚山口さんからだった
山口さんの名は、夫から聞いた事があった
しかし、電話がかかってきたのは初めてだった
「奥様に・・大切なお話があります。今、出れますか?」
私は、なんとなく話の内容が予感出来た
「とうとう来るべき時が来たのかな?」
心臓が高鳴る音が聞こえる・・・・
その音は受話器を通して山口さんに聞こえてしまうくらいに高鳴った
山口さんが指定したカフェに出かけた
いったいどの人だろう?とキョロキョロする私に、一人の男性が声をかけてきた
「山田さんですか?」
「あ、はい」
山口さんは、優しそうな風貌をした男性だった
「実は今日来てもらったのは・・・そのう・・ご主人の事のお話なんですけど・・・」
「はぁ・・」
とりあえず私は惚けたフリをした、だいたい話はわかっていたが
もし間違えでもしたら取り返しがつかない事になるので、自分から切り出さなかった
「実はご主人、ある女性とお付き合いしてるんです」
「・・・・・え・・・?」
さらに私は惚けた。知らなフリをしていた方が都合のいい事の方が多い
「気づかれてましたか?」
「いえ・・・まったく・・・そうなんですか・・・」
なんだか、惚けきってる自分が可笑しく思えてきた
“悲劇の妻”である自分に少し酔って見たい気分なのかもしれない
私は徹底して『知らない妻』を演じる事に決めた
「実は・・・こういう訳なんです・・・」
山口さんは夫とその女性の事を語り始めた
その間私は『まったく知らなかった妻』を演じつづけた
そして、やはりその恋は夫の火遊びであった事
今現在、別れるのに夫が四苦八苦している事を知った
山口さんから、夫と彼女は「別れた」と聞いた時、少し気持ちが軽くなった
「嬉しい」素直にそう思えた
やっぱり私嫉妬していたのだわ・・・今になってようやく気がついた
嬉しさのあまり、顔がニヤケそうになったのだが、それを山口さんの前で堪えるのは必死だった
「・・・という訳で、別れを切り出してから彼女少しオカシイんです。
失恋のショックで・・・ストーカー行為に近い事をし始めてるんです・・・
もしこの状態がひどくなったら・・
山田さんは会社にいられなくなります。もしかしたら彼女がご自宅に直接来るかもしれません」
それを聞いて、背筋がヒヤリとした
確かに最近の日記では妄想気味だが・・・そんな状況になってるとは知らなかった
「・・・それは・・・困ります・・・」
「そうでしょう。僕達もどうしようか考えている最中なんです。
なるべく奥様には迷惑がかからないようにしますから安心して下さい」
「それで・・・今日この話を私にしたのにはどういう意味が・・・」
「ええ、ですから、もし彼女がいつ奥様の元に行くかわからないですからね、
なので急に来られて奥 様がショックを受けるよりは、先にお耳に入れておいた方が
いいかと思って・・・・」
「それは、主人に頼まれたのですか?」
「いいえ、僕の独断です。山田は“バレた時に説明する”と言ってますので・・・
どうか僕が事前に言 った事は内緒にしておいて下さい。
山田は今、精神的に追い詰められてます。奥様を彼女から守ろうと必死です。
なので、どうか見守ってあげていて下さい。
奥様に責められるような事を言われたら、山田はもっと追い詰められてしまう。
どうかどうか、知らないフリをしてて下さい」
知ってしまった事を知らないフリをしていろ・・・とは、都合のいい話だわね
と、思ってしまったが、気がつけば今の私がそうなのだ
私は知ってるくせに山口さんに知らないフリをしたわけで・・・
だから「今更」て感じで構わない・・といえば・・そうなる訳だ・・・
私は「わかりました」と素直に承諾した
しかし、山口さんは別に夫にも頼まれてないのに勝手に行動している・・・・
果たしてこれは好意でしてるのか、好奇心(おせっかい)でしてるのか、どちらなのだろう?
山口さんが言わなければ私はずっと知らずにいた事なのだ
それを話すなんて・・・・本気で夫の為と思ってるのだろうか?
悪いが私は、こういうおしゃべりな人間は好きじゃない
その後は、その彼女について詳しい情報を聞いた
名前、年齢、風貌、会社での様子、性格、住所
彼女に関する情報を一気に手に入れた
私と山口さんは1時間程話して「お互い今日会った事は無かった事に・・」と約束して別れた
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