大江戸愛絵巻図(続編) +桃ノ花ビラ+ p5

 「この土手に降りよう」

 突然、代官が歩みを止めた
 そして、橋のたもとの土手に降り始めた
 夜なので、当然だがあたりは真っ暗だ
 二人とも、手元の提灯の灯りだけを頼りに土手を降りる事になる

 「さぁ、私の手をとりなさい」

 土手に片足1歩降りて代官が手を差し出した
 
 差し出された手は越後屋の前にあった
 
 声をかけられただけでも信じられないに、さらにこんな優しい仕草をされて
 益々目の前の事が信じられなくなった越後屋であったが
 その手に嘘は無いと信じた

 ギュウと握り返した代官の手
 
 緊張で汗ばみ、しっとりと湿った肉厚な越後屋の手と比較して
 代官の手は冷たく、骨ばっていた
 越後屋の手を包み込むように、代官は握り返すと、二人は手を取り合い土手を降りた


 橋の下で、二人は腰掛けた
 
 夜の川は真っ黒で、静かだ
 ちゃぷちゃぷ、という川の音だけが二人の静寂をさえぎる
 
 提灯のほのかな光の向こうの代官の横顔が見えた
 
 静かで険しい顔をした代官の顔はいつもの表情だ
 しかし、何か違う気がする
 何か・・・・『寂しさ』を感じる
 私に何かを訴えたい・・ように感じる
 そう思うのは私の自惚れなのだろうか・・・?

 越後屋は、そう思いながらストレートに聞けず
 代官から話し掛けてくれるのを待った


 「転勤になった」


 突然に代官は口を開いた

 
 「え!」


 越後屋は少し大きめな声で、驚きの声をあげた








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