大江戸愛絵巻図(続編) +桃ノ花ビラ+ p2

 代官は越後屋を見届けた後、役場に戻った
 
 「あぁ、杉田さん。お帰りなさい。待ってましたよ」
 
 と、同僚の者が声をかけてきた

 杉田とは代官の名である
 杉田為五郎
 それが、代官の本名である

 「杉田さん、急なんですが今夜送別会をしたいんです。ご都合はいいですか?」

 「独身の私に都合も何も無いでしょう(笑)送別会なんてそんなお心遣いはよろしいのに・・・」

 「いえ、いえ、杉田さんには大変お世話になりましたから。仲間内だけの簡単な宴ですがどうぞ来て下さい」

 「ありがとうございます。素直にお受け致します」

 「では、今宵、山川屋で待っています」

 「わかりました」


 二人はそう会話すると、それぞれの仕事に取り掛かった
 代官は帳簿を出して、そろばんをはじき始めた
 
 パチパチパチパチ
 
 心地よいそろばんの弾く音が聞こえる
 すばやい指の動きに、代官がどれほどのそろばんの名手であるかがわかる
 実は、その腕を買われて、今度転勤になる事が決定したのだ
 そして、ここでの仕事も今日でお終い
 代官はここ数日、残務整理に追われていた


 「あの男ともお別れだな・・・・」


 そろばんの弾く音にかき消されそうな程、小さな声でそっと代官は呟いた





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